現在の30代以上の酒好きならば、一度は耳にしたことがある「焼酎ブーム」という言葉。今回はそんな、「焼酎ブーム」を筆者個人の視点から解説したいと思います。
焼酎ブームとは?
実は焼酎ブーム自体は、これまでに3度あったと言われています。
1度目は、1970年代後半に起きた焼酎のお湯割りのブーム。火付け役はTVのCMだったそうです。
続いておきたのが、1980年代前半のいわゆる「缶チューハイ」のブームです。ただし、こちらのブームはいわゆる本格焼酎(乙類)のブームではなく、甲類のブームでした。ですので、この場では余り触れませんが、近年の「缶チューハイ」はそもそも、原料に焼酎(甲類)すら使わず、ウォッカやスピリッツなどを使っている銘柄も多く、「チューハイ」(焼酎ハイボールの略)という定義から少々見直したくなる銘柄もおおくあります。
3度目に起きたのが、2000年代前半に起きた「本格焼酎」のブームです。この「本格焼酎」のブームによって、現在でもプレミア価格で取引される、3Mと言われる「魔王」「森伊蔵」「村尾」などが一躍有名になりました。
今回はそんな、本格焼酎のブームから現在に至る変遷を見ていきたい思います。
本格焼酎ブーム
先程、本格焼酎のブームは2000年代の前半と書きましたが、はっきりとした年は今のところ決まっていません。ですので、ここで決めてしまいたいと思います。
まず、2000年代の前半とは、平成12年(2000年)から平成17年(2005年)を指します。それでは、その年代の本格焼酎の生産量を調べてみましょう。
2000年399(千kl)、2001年392(千kl)、2002年424(千kl)、2003年480(千kl)、2004年612(千kl)、2005年627(千kl)(出典は国税庁「酒のしおり 令和2年3月」による)となっています(ちなみに、上の生産量はアルコール度25%の焼酎に絞った数字)。
ちなみに、2005年の627(千kl)が本格焼酎業界において最も生産量が多かった最高記録でした。名実ともに、2005年が焼酎ブームの絶頂期ということになります。
ここまで確認しましたが、「本格焼酎ブーム」は何年からなのか、についてですが、グッと生産量が増える、2004年からと言いたい所ですが、だいたいの場合、酒造業界においてはその年の生産量は前年の売上を見て決めている例が多いのです。ゆえに、前年の2003年を「本格焼酎ブーム」がはじまった年としたいと思います(筆者独自の見解です)。
焼酎の味わいの変遷
焼酎の味わいの変遷を追っていく前に、焼酎における蒸留のこと、常圧蒸留と減圧蒸留についてかんたんに説明したいと思います。
常圧蒸留、減圧蒸留、ともに使われているこの「圧」という文字は、気圧をさしています。減圧蒸留とは、空気を抜くことで、気圧を低くし、蒸留する際の沸点を変化させることで、蒸留される酒質に変化をもたらします。基本的にはライトで飲み易い酒質になると言われています。
常圧蒸留は簡単に言えば、昔からある技術といえますが、減圧蒸留はそうではありません。減圧蒸留が焼酎業界に普及され始めるのが、1960年代後半から1970年代前半にかけてだからです。
写真は町田酒造の蒸留器
これは、独自の見解になりますが、焼酎ブームの種火をつくったのは、飲み易い酒質であった減圧蒸留の焼酎だったのではないか、と思っています。「富乃宝山」(常圧と減圧のブレンド)や「魔王」、「海」等の比較的スッキリした味わいの焼酎が初めて焼酎を飲む世代の入口として機能していたのではないかと考えているからです。
もちろん、焼酎ブームでしたので、お酒好きはよく焼酎を飲むようになります。すると、スッキリとした味わいの焼酎では徐々に物足らなくなってくる。すると、常圧蒸留でくせのある味わいを好むように変化していく。「もぐら」や「兼八」、「黒瀬」「森伊蔵」、「村尾」などが常圧蒸留の焼酎にあたります。
焼酎ファンは、より強いクセを求めるようになっていきました。ゆえに、そこから「無濾過」のブームがやってきます。「無濾過」とは「濾過」をしないことによってより強いクセの酒質を造り上げた焼酎をさします(通常焼酎の原酒は40%程度のアルコール度であり、そこから濾過を行い、雑味を取り除き、25%まで加水して瓶詰めします)。筆者も昔は好んで飲んでいました。
そんな、無濾過ですが実は現在では余り見かけることはありません。どうやら無濾過を造っている酒蔵が減少傾向にあるそうです。
もちろん、無濾過が昔ほど売れなくなったというのは大きい理由でしょう。そもそも、焼酎自体の売上が落ち始めているということも一因していますが(現在は全盛期と比べると4割ほど落ち込んでいる)、一番の理由は近年の日本酒ブームが関係しているのではないかと筆者は考えています。
現在の焼酎のトレンド
日本酒ブームによって焼酎が売れなくなったから、というのが主な理由ではありません。もちろん、そういった側面はあるとは思いますが、一番の影響は日本酒ブームによって、お酒好きの味覚に変化が起きたのではないか?ということです。
近年の日本酒ブームを端的に説明すると、フルーツのような香りの日本酒が中心になっています。いわば、華やかな香りのお酒がトレンドと言えるのです。
そんな中、クセを前面に押し出す、無濾過の焼酎は徐々に下火になっていかざるを得なかったのかもしれません。
その証拠に現在、焼酎のトレンドになりつつあるのは、華やかな香りの焼酎です。まだ、知っているお酒好きは余り多くないかもしれません。
銘柄名を挙げていくと、柑橘系の香りを感じさせる「蔵の師魂 完熟」や、ライチのような香りの「だいやめ」、フルーツ系でありながらも芋感をある程度残した「松露 colorful」等、フルーティーな香りの焼酎が少しずつ現在の焼酎業界を席巻しつつあるといった印象を受けています。
なにより、上記を初めて飲んだ時の衝撃ときたら!
とはいえ現状、フルーティーな焼酎は、まだひいきめにみてもブームの萌芽といった印象です。仮に、このフルーティー系の焼酎が入口になり、また若い層にファンが増えるのであれば、第4の焼酎ブームが到来することでしょう。
とすると、フルーティーな焼酎の入口の先にある焼酎は一体どんな焼酎なのでしょうか?そんな未来を楽しみにしたいと思います。
お読みいただきありがとうございました。
※ある程度の事実にもとづいた筆者独自の見解です
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